「魂の退社」後藤えみ子著

50歳、夫なし、子なし。ついでにアフロ。

朝日新聞社に28年間勤めた著者が選んだ道は、なんと退社だった。

 

人生の折り返し地点もとうに過ぎ去った50歳という年齢で、なぜ大手新聞社を退社するという英断に至ったのか。

本書では会社を辞めることなど露ほども考えていなかった著者が退社するに至った経緯、そして、日本がいかに「会社社会」であるか(サラリーマン・OLが贔屓される社会であるか)を知ることができます。

また朝日新聞社勤務時代は湯水の如く使っていたお金を、退社後はほとんど使わなくなった著者のお金に対する考え方や心の変化も細かく描写されているため、「お金があれば幸せなのか、無くても幸せなのか」という現代人なら誰もが抱く疑問にもある種の答えが示されているように思います。

 

著者が会社を辞めるきっかけとなったのは、仲があまり良くなかった先輩の40歳の誕生日に「いよいよ人生の折り返しですねー」とイヤミを言ったことからです。

自身が発したその言葉がなぜか著者の心の中を行ったり来たりして出ていきません。

そう遠くない未来に自分にも訪れる「人生の折り返し地点」。

出世競争のレールからは外れ、欲望のままに稼いでは使ってを繰り返すも満足できない日々。

このまま老後を迎えたらいったいどうなってしまうのかという恐怖と危機感を抱きます。

 

そんな折に大阪のデスク(自分で記事を書くのではなく、集まった記事を編集して完成にもっていく役職。いわゆる中間管理職。)から香川のデスクへの異動を命じられます。

そこで体験することになる、「ある」ことよりも「ない」ことの贅沢こそが著者の人生観を一変させることになります。

例えば野菜の直売所では、スーパーには年中あるはずの大根が寒くならないと出てこない。

しかしいつでも手に入ることが当たり前と化していた著者にとっては、夏が過ぎて冬が近づき、待ち焦がれ思い焦がれ、満を持して店に並び始めた大根に心が躍ります。

現代において「ある」ことが贅沢だと思えることはない。むしろ「ない」からこそ得られる楽しさや喜びがあるのではないかという発見をします。

 

また、香川に来て始めた山歩きで出会ったお遍路さんの笑顔に号泣することになります。

人はモノや金や地位を求めて幸せを獲得しようとしますが、お遍路さんは何も持たずその身一つで、幸せを求めるでもなく一人苦労に飛び込んでいきます。

そのお遍路さんの澄み切った笑顔に止まらぬ涙で条件反射してしまった著者は、これまで何かを得ることが幸せだと思っていたが、何かを捨てることこそが本当の幸せに繋がるのではないかと気付かされることになります。

 

こうした香川での数々の体験を経て、次第に著者は「お金があれば幸せ」から「お金がなくても幸せ」、「お金を使わなくても幸せ」へと考えを改めていくことになります。

そうしてお金に縛られなくなると給料の増減も気にならなくなり、会社で思い切った仕事ができるようになってやりたいことをやりきった著者は、本当の幸せを求めてついに退社する運びとなるのでした。

 

アフロの著者が50歳独り身で会社を辞めるという強烈なインパクトとは裏腹に、「ある」ことに慣れきった現代人の心の貧しさや、「ない」ことがもたらす真の豊かさに気付かされる良書だなと感じました。

また、日本で会社を辞めたらどうなってしまうのかが触り程度ですが書かれているのも、独立を目指す身としては興味深かったです。

独立する場合失業保険は貰えるのか。会社が代わりに払ってくれていた税金はどうなるのか。健康保険や年金の支払いはどうすればいいのか。

部屋を借りるときも50歳独身無職では一筋縄にはいかず、不動産屋とのやりとりが会話形式でわかりやすく書かれていてちょっとした社会勉強になります。

 

私は独立を考えている人間なのでタイトルに惹かれて購入しましたが、日本がいかに「会社」や「お金」に依存した社会であるかを知れる本にもなっていますので、たとえ行動には移せなくとも気付きは得られるのではないかと思います。

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